2009年11月27日、東京・早稲田奉仕園スコットホールにて、劇団スタジオライフ『トーマの心臓』『訪問者』連鎖公演の製作発表が行われた。この会見は、両作品の原作者である漫画家・萩尾望都氏の初の原画展が12月に開催されるということで、その製作発表も兼ねたもの。
ホール内へ柔らかな午後の光が差し込む中、まずは萩尾氏とスタジオライフ演出家の倉田淳によるトークショーがスタート。萩尾氏は倉田の問いに答え、『トーマの心臓』を執筆した当時の環境や、『訪問者』に着手する契機になったのが当時放送されていた松本清張原作の映画『砂の器』だったことなどを明かした。「『砂の器』で父と子が(里を追われて)放浪する様々な風景を見て、オスカーもこんな風にグスタフに連れられて旅したんだろうなぁと、突然描きたくなっちゃったんです」(萩尾氏)
まるで学生のように熱心な倉田の語調からは、萩尾作品への尽きせぬ興味と、心からの尊敬がうかがえる。それを裏付けるように萩尾氏も「原作とは全くの別物として演出される舞台作品も多い中、倉田さんは原作のスピリットを大切にして、それを壊さないで表現なさる方。こちらも学ぶものが沢山あります」と信頼の言葉を寄せた。
さらに『トーマの心臓』に登場する不良少年サイフリートや盗癖のある少年レドヴィといったキャラクターについても、誕生のきっかけを倉田が質問。脇のキャラクター一人ひとりにまで当事者性と深い興味を持って想像力を行き渡らせている萩尾氏の姿勢に触れ、会場で耳を傾けていた人たちの間にも優しい空気が流れる。過去6回もの舞台化があってこそ、またその中で培ってきた両者の関係性があってこその、作品の細部にまで言及される充実した対談内容となった。
合同記者会見
後半は、シュロッターベッツ(=物語の舞台となる学校)の制服に身を包んだ劇団員21名も加わり、製作発表へ。
スタジオライフ代表・河内喜一朗は、2010年に劇団旗揚げ25周年を迎えることに触れ「記念すべき年に、スタジオライフと切っても切れない2作品をまた上演できることを大変幸せに思っております」と挨拶。
続く倉田は「『トーマの心臓』初演の際、どうしても尺が長すぎて、オスカーの背景を描いた部分を泣く泣く削ってしまったんです。いつか絶対にリベンジしたい! とのふつふつとした思いが1998年の『訪問者』初演へとつながりました。お互いがそれぞれ独立した物語でありながら、一方の作品がもう一方の作品世界のイメージを広げていきます」と、2作品同時上演の意義などを語った。
役者たちも順に抱負を。前回(2006年)に続き『トーマの心臓』のエーリク役を務める松本慎也は「一人でも多くの方に、トーマの愛とこの作品の感動を共にして頂きたいと思います」と力強く語り、今回初めてユリスモール役に抜擢された青木隆敏は「僕はこれまで3回『トーマの心臓』に参加し、いずれもイグーという役をやらせて頂きました。イグーにとって憧れの存在であり、ヒーローであるユリスモールを演じさせて頂くのはとても感慨深く、神聖なこと」と緊張の面持ち。
Wキャストで同じくユリスモールを演じる山本芳樹は対照的に、過去4度この役を経験。「今の僕を形成しているものの中ですごく大きな部分を占めている役です」と静かな意欲を。1997年以来、劇団が舞台化してきた全ての萩尾作品に出演している曽世海司も「『訪問者』はオスカーを演じる際の役作りにおいて必要不可欠な、バイブルのような存在になっています」と表情を引き締めた。
いつもの顔あり、新しい顔あり。記者からの質問を受けた萩尾氏が「いろんなバージョンが生まれるたびに“役者さんが違うとこんなにも違うのか”という楽しみもあって。生身の日本人がドイツ人に見えてくる、魔法のような瞬間を今回も楽しみにしています」と、期待を膨らませて製作発表は終了した。
なお萩尾望都原画展には劇団スタジオライフもコーナーを設け、これまでに上演した萩尾作品(『トーマの心臓』『訪問者』『メッシュ』『マージナル』)で使用された衣装の展示や、トークイベントなどを行う予定。
- ■萩尾望都原画展 概要■
- 2009年12月16日(水)~23日(水・祝)
- 西武池袋本店 別館2階=西武ギャラリー
- 開場時間/午前10時~午後8時(ご入場は閉場の30分前まで)
- 入場料/ 一般:700円 大学生・高校生:500円「中学生以下は無料」
- ※「クラブ・オン」「ミレニアム」会員のお客様は500円(優待料金)にてご入場いただけます。
- 主催:「萩尾望都原画展」実行委員会
- 共催:株式会社トラフィックプロモーション/ 株式会社リブロ