『VANITIES 』への思い

『VANITIES』はオフ・ブロードウェイのコメディとして「チェルシー・ウエストサイド・シアター」にて1976年3月2日に幕を開け、1980年8月3日に閉幕。実に1785回という最長のロングラン公演記録を打建てた作品です。日本には翻訳者の青井陽治氏が紹介し、1980年5月28日にテアトロ《海》という劇団が松浦竹夫氏の演出により渋谷にあった小劇場ジャン・ジャンで幕を開け繰り返し上演を行いました。
 
登場人物はジョアン、キャシー、メアリーの三人の女性のみ。ハイスクール卒業前、カレッジ卒業前、そしてその６年後と、三つの時を定めて三人の会話が行われます。三人は親友。ですが年月とともに夫々の生き方が違うベクトルとなり、会話は微妙なズレを生じてきます。丁々発止と交わされる会話は、パワフルで軽妙。笑いの中に三人の心の奥の痛みが透けて見えてくるのです。４０年以上も前に誕生した戯曲ですが、微塵の古さも感じられません。むしろ今だからこそ明確に分かる彼女たちの痛みと思うのです。
 
日本での出版、版権を保持していた劇書房は閉じられ、翻訳者の青井陽治さんも亡くなり、本邦初演を行った渋谷ジャン・ジャンも消えてしまいました。このまま『VANITIES』まで消えてはならないと強く思います。共感できる名作は繰り返し上演して命を繋いでゆきたいと思い、今回、The Other LIFE の演目として取り上げさせていただきました。劇場は中野のウエストエンドスタジオ、小劇場ならではの醍醐味の中でジョアン、キャシー、メアリーの心の中を覗いていただきたく思います。