第一回 青年フランツ対談
笠原浩夫
(<再演>2001年5月23日〜31日12st 5月2日〜3日2st)
VS
曽世海司
(<再再演>2008年11月28日〜12月14日12st・12月19日〜21日2st)
----------フランツというのは、周りの多くの人間と関わっている役だと思うんですが。
笠原 青年フランツとしては、特にエーリヒ、クラウス、それからマルガレーテだね。ライフって、他の作品で男性同士の愛みたいなのが結構多いじゃない。でもこの作品と「パサジェルカ」にはそういうのは無いよね。
曽世 それは主人公が女性っていうのが大きな特徴だよね。その主人公の女性の愛っていうのが深く関わっている話であるのは、「死の泉」も「パサジェルカ」も間違いないですよね。
笠原 フランツというのは物凄く過酷な状況で生きてきた男で、ある意味復讐心や、誰かと出会いたいという想いだけで生きていたりするような男で、なんというか、やっていてものすごく悲劇のヒーローになれるんだよね。だから、ライフの作品の中で、男だったらやってみたい3本の指に入るんじゃないかっていう役だね。誰もが口にしたいセリフとかもあるからね。
曽世 あ〜、ありますね。
笠原 終盤にね、バーッと言ってなんていうかこうバーッとやっちゃう、クライマックスの、バーッしか言えないんだけどバーッていう(笑)
曽世 バーッとね(笑)
笠原 主にクラウスとの男同士の繋がり的なやりとりというのもすごく面白いし、あと、対マルガレーテ。これは微妙な愛も入ってくるわけですよ。2人は年の差が10歳くらいあるんだけど、1幕で子供ながらにちょっと愛が芽生え、2幕(15年後)で一体どうなっちゃうの?みたいなね。
曽世 でもすごいね。あの笠原浩夫にして、男だったらやってみたい役3本の指に入ると言わしめるというのは。
笠原 いや、これはめっちゃ面白いよ。しかも寡黙で、その分言うことがひとつひとつ重いわけよ。だから、ステータスのある役なんだよね。面白いですよ、これは本当に。
曽世 好きでしたもんね。好きそうだなぁって思いました。
笠原 ガーッて入り込める役だからね。気持ちも物凄く繋がるし、ああいう戦時中の苦しい時期にこんな体験をしたらどうなっちゃうんだろうということを追体験したくなっちゃう役だよね。
曽世 寡黙な中にそういう想いがね。僕おしゃべりなんですけどそういう役は大丈夫ですかね?
笠原 あ〜、我慢して(笑)
曽世 想いの中に閉じ込めてね(笑)
笠原 それにしても、ギュンターをやってた海司が青年フランツやるっていうのも面白いねぇ。
曽世 やらせていただきますよ。
笠原 やっぱり全然違う側面で作品を見てたわけだから、捉え方がガラッと変わるね。
曽世 全然違いますよね。2人は2幕の最後の方で会うんだけど、そこまで過ごしてきた時間が全然違いますからね。台本読んでて面白いですよ。
笠原 でもギュンターもいい役だよね。っていうかみんないい役なんだけどね。
曽世 本当に皆それぞれ粒だってますよね。これだけ登場人物がいてそれぞれストーリーがあって、というのは、やっぱり皆川博子さんの原作の描き方が、一人一人に丁寧に想いを込めて書かれているから魅力的な人物ばかりなんですよね。
----------初演と再演の時、曽世さんはどういう風に笠原さんやフランツを見てたんですか?
曽世 いやあ、笠原さんかっこいいなーって(笑)
初演と再演って、少年フランツは楢原さんがやっていたんですけど、笠原さんは楢原さんの行動線を「これ見ちゃうよねー」って言いながらすごく見ていましたよね。そして、そこで起きた事をどれだけ自分に投影できるかというのをやっていたという印象があるし、笠原さんもたしかそう言ってました。
笠原 やっぱり見ないとできないからね。
曽世 今回の稽古で、奥田が何を感じて少年フランツを演じているかということに自分のベクトルがガーッて向かった時に、笠原さんが言っていたことをふと思い出して。少年フランツのやっていたことをもらって、「あとは俺に任せろ」的な。
----------役を成仏させてあげられるのは青年側ですもんね。
笠原 楢ちゃん「大人もやりたい」って言ってたもんなぁ。
曽世 (笑)
----------笠原さんに聞いてみたいことはありますか?
曽世 笠原さんって、例えば幼少期の体験だったりとか、何かを背負っている役って多いと思うんですけど。
笠原 ドラキュラとか「白夜行」の亮司とかね。
曽世 そういうのを背負うのに、笠原さんはどういう背負い方というか役作りをしてるんですか?
笠原 難しい質問だねぇ。青年フランツのときはかなり原作を読み返したね。
曽世 なるほど、芝居の中に描かれていない部分もたくさんありますもんね。
笠原 台本も結構読み込んだね。「こういう流れだから、この言葉はかなりピックアップされるわけだ。ということは大人になってもこの言葉は残っているんだろうな」とか「このシーンでマルガレーテに何かされた、そのシーンはずっと大人になっても残っているんだろうな」とかね。
曽世 じゃあ、当然といえば当然なんだけど、少年時代からのピックアップというのはかなり意識的にやったんですね。
笠原 そうだね。もっとやればよかったかもしれない。
曽世 おおー(笑)
----------この作品は、ナチスドイツという時代と状況が背景としてすごく関わっていますが。
笠原 「死の泉」って、戦争中でしかも収容所みたいな異常なところで始まっちゃった関係性なわけじゃない?そういうのをやっていくっていうのは、変な言い方だけど楽しかったかな。1幕で倉田さんがすごく「擬似家族」というのを言っていて、フランツって親と離れ離れになって死に別れしたような存在で、収容所に無理矢理押し込められて、そういう場所で出会った人に親近感を覚えていくっていうのはすごく異常なことでしょ。でもそれがやっててすごくわかるというか、こういう状態でこんな風になったらどうなるだろうなみたいに、どんどん話の中に自然に入り込めるみたいな感じがあったね。
曽世 さっき、それぞれのキャラクターが粒だっているみたいな話があったけど、極限状況の中で、そんなに特殊な人はいないんですよね。状況が特殊なだけで、そこに押し込められた人たちがこういう行動をするというのが繋ぎ合わさっていく話だから、いろんなところに感情移入できるし、やってる側もスッと入れるというのはそういうことなんだろうね。
笠原 この話ってかわいそうな人たちがたくさん出てくるんだけど、かわいそうな役をやるのって俺は結構楽しかったりするんだよね(笑)。それを淡々とやれていくという面白さがある。
曽世 情緒過多になってる暇が無いくらいすごい話ですもんね。
笠原 それはマルガレーテに任せて(笑)。
曽世 だからこっちが勢いづいてどんどんのめり込んでいく中で、お客さんもそこに引きずられて物語に入ってきてくれたのかなぁという感じが、やっていてしましたけど。
笠原 いやぁ、かわいそうな役はいいよ!
曽世 (笑)
----------でも、最後は救われるんですか?
笠原 フランツ的には救われるよ。と、思って俺はやってた。
曽世 もちろん観た人の解釈だろうけども、役者としては救われると思ってやってたんですね。
笠原 そりゃそうですよ。
曽世 フランツはすごくかわいそうなんですよね。でも、想いの昇華できるラインがあるっていう、これは大きいですね。
----------では最後に、曽世さんに期待する事は?
笠原 この作品を外から観るのは初めてだから、中にいたら分からなかった事を、客として普通に楽しみたい、楽しませてくださいと。期待してます。
曽世 はい(笑)。ドラキュラとか(「トーマの心臓」の)オスカーとか、笠原さんが先にやった役を俺があとから追いかけるパターンというのが何度かあって、これが結構大変なのよ。笠原浩夫という人が作り上げたものがとても大きくてね。
笠原 いやいや、そうでもないですよ(笑)
曽世 いやいや、そうでもないんですけどね(笑)。
まあでも、今回もどうしたって笠原浩夫の影がちらつくと思うんで。だけど、これは幸いにしてさっき笠原さんが言ってくれてそうだなと思ったんですけど、ギュンターという視点で「死の泉」というものをずっと捉えてたから、多分笠原さんとは違う視点も出てくるかなぁと、淡い期待を。
笠原 周りの役者だってガラッと変わるわけだしね。
曽世 そうそう。なので、今回の青年フランツは・・・
笠原 楽しみにしてますよ〜(笑)
曽世 お任せ下さい(笑)。青年フランツ、大事に演じさせていただきますので。
笠原 はい、よろしくお願いします。
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